「当事者」について(フリーダムのミッション)

私は、一九九二年の開設準備の頃から大阪ダルクの支援活動に参加し、十数年間にわたって大阪ダルクとお付き合いをしてきました。

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当初、開設準備会が作られた頃は、支援者の役割として「ダルクのスタッフの相談にのり、助言をする専門家集団」という位置づけがされていました。このため開設準備会の運営委員名簿には、精神科医やソーシャルワーカー・保健所の相談員が多く、アルコール依存症の治療・援助にあたっておられる専門機関の方もおられました。私は、生活保護の現業に携わる「専門家」として準備会に参加しました。 しかし実際には、大阪ダルクの開設と維持のために何よりも必要だったのは「専門家の助言」ではなく(それも必要ですが)、「お金」でした。学生運動や労働運動に少し関わった経験のある私は、開設基金のカンパ用紙をつくり、開設準備会ニュースをつくりました。 ニュースを発行し、基金の振り込みをお願いしたりして、ようやく大阪ダルクが設立されたのですが、大口のスポンサーのない、財政基盤が非常に脆弱な施設として出発しました。これは残念ながら現在も変わっていませんが、大口のスポンサーがいないがために、数多くの小口のスポンサー(支援者)を広げていく努力を積み重ねることになりました。当初は不定期の発行であった、このニュースを、現行の隔月発行にしたのも、そのためです。

開設から現在まで、乏しい財政下で大阪ダルクが維持できたのは、一重にスタッフの献身的な活動と支援の広がりががあったからですが、それに励まされながらニュースの編集などを続けるなかで徐々に、私の認識に変化が生まれてきました。
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    • 長い間、私は自分の役割は「大阪ダルクを支えること」だと思っていました。しかし数年前から、「大阪ダルクを支えるだけではいけない」と考えるようになりました。その考えをまとめるきっかけになったのは、九八年に実施したサンフランシスコツアーでした。同地の草分け的なクリニックであるヘイトアシュベリー・フリークリニックは「薬物依存者は回復の権利を持っている」というテーゼをモットーにし、無料で診察や入所・通所のリハビリサービスなどを提供していました。その他にも多くの特色ある施設を訪ねたのですが、その旅で私が得た結論は次のようなものでした。「薬物依存者は回復の権利を持ち、同時に自らの回復に対して責任を負っているが、薬物依存者が回復の権利を行使するための環境を整える責任は社会(市民)が負っている」。 ダルクは薬物依存者が作り出した「回復の場」です。しかしダルクがあれば、すべての薬物関連問題が解決するわけではありません。薬物依存者が入院してクスリをきったり、カウンセリングを受けたりできる病院は関西には数えるほどしかありません。ある程度クリーン(クスリを使わないこと)が続いた仲間への就労支援プログラムもないし、家族への支援も不足しています。日本全体を見回しても状況は、そう大きくは変わりません。今の社会は薬物依存者と家族に重罰とスティグマのみを与え、回復の機会を提供していないのです。 最近、よく「当事者」という言葉が使われています。ダルクは薬物依存「当事者」がつくった「回復の場」である、というような言い方も可能でしょう。しかし私は、この「当事者」という言葉はかなり慎重に使われなければいけないのではないか、と思います。薬物依存者が「当事者」であるならば、逆に薬物依存でない私たちは「非当事者」ということになるでしょう。しかし本当に、私たちは「非当事者」なのでしょうか。多くの人々が「生きづらさ」を感じ、薬物依存・乱用が広がりつつある現在社会で、私たちもやはり同時代を共に生きる「当事者」なのではないでしょうか。「当事者」と「専門家」や「援助者」という区分けへの固執は、時に分断の論理として働き、現実に立ち向かう個々の責任と豊かな連帯を阻害します。 私は、今「支援者から当事者へのパラダイムの転換」が必要なのだと考えています。「支援」から「薬物依存者の回復の場、回復の権利を保障するシステムを作り出す主体」への転換こそが、私たちがこれから意識的に進めなければいけない課題だと思うのです。そうした想いを持って2002年3月に「薬物依存からの回復支援」をミッションとする市民団体フリーダムを結成しました。フリーダムでは、薬物依存からのリカバリング・スタッフとボランティアでかかわる専門家や家族が共同して、さまざまな取り組みを進めています。まだまだ小さな活動ですが、薬物の問題で苦しんでいる人たちがためらうことなく相談したり、利用したり出来る場でありたいと努力を続けています。

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