刑事事件と薬物依存

薬物の刑事裁判の実状

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裁判で扱われる薬物犯罪のほとんどが覚せい剤に関わるものです。「覚せい剤取締法」は覚せい剤の「自己使用」について10年以下の懲役という刑罰を定めています。実際には、初犯の場合は懲役1年から1年6月程度の判決が多く、執行猶予がつきます。再犯になると、まず実刑はまちがいありません。使用歴が長いなど「依存性」が強いとされた場合に量刑が重くなります。 検察・裁判所は「覚せい剤の根絶」のために厳罰化を進めてきました。重い刑を覚せい剤使用の歯止めにしようという考えです。しかし第3次乱用期といわれる覚せい剤のまん延は沈静化の兆しを見せてはいません。

「反省」と「決意」の強要

覚せい剤の自己使用を繰り返し、罰せられて刑務所で服役している人はかなりの数にのぼります。 それらの人の多くは、周囲の先輩や友人から勧められたり、他人が使用しているのを見て興味を覚え、覚醒剤を使用するようになり、依存者になったと述べています。そして執行猶予などで実刑を免れたので、これくらいだったらと甘く考え、再使用を続けた結果再び見つかり、服役することになったわけです。ほとんどの人が受刑によりその厳しさを痛感したので、出所したら今度こそ薬物を止めるという意思を表明します。しかしそれらの人の多くは、出所後も使用を止めることができず、再び「犯罪者」として刑務所に逆戻りする人がたくさんいるのが現状です。
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    • 司法関係者は薬物依存者に対する際、今まで薬物使用を止められなかったことへの反省を促し、出所したら二度と覚せい剤等を使用しないように決意させ、再び使用すれば実刑しかありえない旨を告げて、違法な薬物の使用をやめる動機づけにしようとしてきました。もちろん本人たちの多くも、今度こそ止めようという気にはなって出所しているわけなのですが、現実はそんな簡単なものではありません。 司法サイドでは、薬物依存の原因を「本人の意志の弱さ」としてとらえ、今までの依存に対する「反省」と、今後二度と使用しないように「決意」を促すことで依存脱却の動機づけとし、さらにその家族に対しては、本人を厳重に監督するように「協力」を求めてきました。もちろん受刑を機に覚せい剤等の使用を止めた人もいますが、多くが出所後に、再び乱用に陥り矯正施設に逆戻りしてしまっています。今までのような本人の意志に基づく「反省」と「決意」だけでは限界を感じます。

      治療的アプローチへの第一歩

      薬物依存者の自助グループやダルクの活動を見てきて、重要に感じられるのは「治療」という視点です。今まで薬物依存者に治療の機会を用意するという発想は、治療可能な病院や断酒会のような自助グループが身近になかったこともあって、ほとんど省みられることがありませんでした。 薬物依存を「自分の意志ではどうにもならない病気」としてとらえ、「薬物使用に対する意志のコントロールができなくなっている」薬物依存者に対して、「癒す」ことを目的として、「自分の意志の無力を自覚させ、医療と自助グループへの参加を促す」と共に、その家族に対しても「(客観的に見て)薬物依存を助長する支え手であることをやめ本人にゆだねる」といったアプローチが必要ではないでしょうか。 これは今まで司法機関が採り続けてきたアプローチとは対極をなすものです。しかし薬物依存者に対して、隔離と厳罰で臨み「反省と決意」を促す「処遇」からでは依存からの脱却がはかれなかった現実に照らし合わせた場合、治療的アプローチと司法的アプローチを交錯させていくことは、今後重要なことと思われます。アメリカで始められているドラッグコートの試みも、その必要性を示しています。

      司法と治療の狭間で

      今後、薬物依存者に対する医療体制がより充実し、NAなどの自助グループやダルクの先進的な取り組みが拡大してゆけば、治療的アプローチは司法機関に対しても様々な影響を与えていくことになると思われます。薬物依存で受刑中の人から、覚せい剤を使用しつづけていると、警察官に追いかけられているような幻覚に陥り、怖くなって自首したという話を聴いたことがありますが、それは彼等の心の中にも犯罪行為を意識しながらも止められないといった葛藤が存在し、苦悩していることを物語っています。司法処分の際に、本人が積極的に自助グループにかかわり、薬物依存からの脱却をはかるように動機づけを行い、再使用があった場合も、本人の「意志の弱さ」や「反省のなさ」を責めるのではなく、「回復のステップ」としてとらえて回復の可能性を探り、それを助長していくことができればと考えます。司法と治療は、相互に適度の緊張関係を維持しつつ、援助の両輪として機能すべきものではないでしょうか。

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