薬物依存症回復支援 — 薬物依存症は回復できる病です

ホラ判事インタビュー


平成15年10月27日月曜日の午後6時30分、大阪弁護士会6階ホールにて、米国ドラッグ・トリートメント・コート運動の第一人者であるペギー・フルトン・ホラ判事の講演会「薬物依存症者に『処罰ではなく希望を』」が開催されました。

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ドラッグ・トリートメント・コートでは、薬物事犯等の被告人の処罰よりも治療と回復に力が注がれます。そこでの丁寧なトリートメントの結果、実際に再犯率が下がったという調査結果もあります。
ホラ判事は、米国カリフォルニア州アラメダ郡の上級法廷判事として、ドラッグ・トリートメント・コートの創世記からドラッグ・トリートメント・コートに取り組んでこられました。
当日は、講演に先立ち、来日間もないホラ判事へのインタビューを行うことができました。


―――ドラッグ・トリートメント・コートの意義についてお教え下さい。

ホラ判事 ドラッグ・トリートメント・コートにより、薬物依存を含む物質依存に対する司法の監視が行われる結果、ドラッグ・トリートメント・コートに参加した人たちは物質依存から回復して、再び薬物事犯に関わらないことが多いのです。私は20年間、ドラッグ・トリートメント・コートに関わっていますが、ドラッグ・トリートメント・コートの意義は、実際にそれが効果を発揮しているというところにあります。

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    • ―――ホラ判事はドラッグ・トリートメント・コート運動の第一人者であるとうかがっていますが、カリフォルニア州でドラッグ・トリートメント・コートを導入しようと思ったきっかけは何ですか。

      ホラ判事 私が裁判官になって1年目で、私がやっていることは効果がないと思ったことがきっかけです。その時私がやっていたことは、犯罪を犯した人に対して2度と犯罪をしないようにと訓告することでした。しかし、その人は刑務所を出たら、また犯罪を繰り返すのです。
      私なら刑務所に行くとしても1度で十分であり2度も行きたいとは思わないのに対し、彼らが何度も刑務所に行くのは、私と彼らとがどこかが違っているからだということは分かっていても、どこが違うのかが理解できていませんでした。その違いとは、もちろんアルコール中毒その他の依存症でした。そこで、私は、今から16年か17年前には、もっと再犯防止の効果を上げることが出来る裁判官になるために、依存症の全てを学ばなければならないと思うようになりました。
      12年ほど前にはフロリダで最初のドラッグ・トリートメント・コートが始まり、2番目にドラッグ・トリートメント・コートが出来たのが、私のいるカリフォルニア州アラメダ郡でした。現在、ドラッグ・トリートメント・コートは、カリフォルニア州だけでも100以上、全米では何千もの法廷へと拡大しています。
      ドラッグ・トリートメント・コートを設立するに当たり、初めは弁護人や警察官、保護司などの人を集めてどうやっていくかについて話し合いました。警察署長や市長、市議会にも協力をお願いしました。その結果、私の同僚である裁判官たちは、ドラッグ・トリートメント・コートを始めることについて「はい」と言うしかなかったのです。
      また、ドラッグ・トリートメント・コートを始める2年前には、私はロータリークラブやライオンズクラブ、商工会議所など地域の人々が集まるところに行って、そこの人たちとも何度も話し合いを持ちました。こうして、全ての人たちがドラッグ・トリートメント・コートを待ち望んでいたのです。
      このような準備を行ったためか、私は今ではドラッグ・トリートメント・コートの判事として有名となり、町を歩いていても人々から「ドラッグ・トリートメント・コートはどうですか?」と聞かれるようになりました。うれしいことです。

      ―――アメリカでドラッグ・トリートメント・コートを導入できたことには、どのような社会的背景があったのでしょうか。

      ホラ判事 アメリカでは、薬物事犯の増加による「薬物戦争」が勃発し、より高いコストをかけてより多くの刑務所が建設されるという事態が起こっていました。そのことにより、アフリカ系アメリカ人の若い男性の25パーセントが刑務所に入るか保護観察下にあるという結果が生じていました。
      その結果、それ以外の人たちは、こんなにコストのかかることをやってはいられない、薬物戦争は効果がないと思うようになったのです。
      また、同じ頃、大統領がブッシュ元大統領からクリントン前大統領へと変わり、女性のリノ氏が司法長官に就任しました。彼女は、ドラッグ・トリートメント・コートが初めて行われたフロリダの司法長官をしていた人物です。また、大統領夫人となったヒラリー・クリントンの兄弟がフロリダのドラッグ・トリートメント・コートの公選弁護人を勤めていました。そこで、政府はドラッグ・トリートメント・コートに対して非常に協力的な姿勢を取ったのです。
      また、前述の通り、人々も、薬物戦争は薬物抑止にとって効果がないと思うようになっており、原状に危機感を抱くようになっていましたので、共和党・民主党を問わず、政府や議会はドラッグ・トリートメント・コートには好意的でした。そのような社会的背景があって、ドラッグ・トリートメント・コートは爆発的に増加しました。
      このように、これまでのやり方による失敗の繰り返しと、政治的なタイミングの良さが相まって、ドラッグ・トリートメント・コートがアメリカで定着したのです。

      ―――「薬物依存は病気なので、処罰よりはトリートメントを」というのがドラッグ・トリートメント・コートのコンセプトだということですが、その考えを突き詰めると、米国で違法薬物の使用が「犯罪」であると言う枠組みが残っていることと矛盾することにはならないのでしょうか。

      ホラ判事 裁判所は政策を形成する場ではなく、目の前の問題について判断を行うところです。違法薬物使用を非犯罪化するかどうかは立法府が決めることであって、裁判所の決めることではありません。
      例えば、アルコールは完全に合法とされていますが、合法とされていることがアルコールによる犯罪発生を解消していると言えるのでしょうか。答は「否」です。すなわち、違法薬物を完全に非犯罪化したとしても、違法薬物と犯罪との結びつきは無くならないのです。違法薬物の非犯罪化という政策問題は立法府に任せるべきです。裁判所の出来ることは、いかにうまく、効果的に再犯率を下げるかということであると思います。
      裁判所を純粋な司法機関と捉えずに問題解決機関であると捉えた場合、より効果的に問題解決を図ることが出来るでしょう。アメリカの実務家や裁判官の間では、「治療的法理学」という概念が広まりつつあります。特に、刑事法の分野ではそれが顕著であり、法や手続を通して裁判官が健康な人々を増やすにはどうしたらいいのか、また、人々によい心理的影響を与えるような方法とはどのようなものなのかが追求されています。また、予防法や修復的司法という治療的な手法から、実務家の中には法律が治療のためのものであると見る人もいます。このことに関する文献については、ウェブサイトで「http://www.therapeuticjurisprudence.org」のページを見て下さい。但し、このサイトは英語とスペイン語バージョンのみです。

      ―――ドラッグ・トリートメント・コートに関わらない法律家は、ドラッグ・トリートメント・コートについてどのように思っているのでしょうか?

      ホラ判事 批判はあまり沢山ありません。ドラッグ・トリートメント・コートに関心のない人たちが行う批判には、「それは裁判所・裁判官の役割ではない」とか、「裁判官は保護司やソーシャルワーカーではない」といったものがあります。
      また、刑事弁護人の中には、裁判所と協力してやっていくことが被告人の人権擁護の観点から不安が残ると言う人もいます。しかし、治療的法理学で言う治療的な関わりは、適正手続や平等原則をないがしろにするものではありません。
      他方で、検察官は、危険かも知れない人、また再犯のおそれのある人を社会に戻すことについて不安に思うかも知れません。しかし、薬物依存者を刑務所に入れても、彼が社会復帰したときには、以前と同様の依存者のままです。従って、検察官にとっても、治療なしに刑務所に入れるよりも、トリートメントを支持することの方が、より社会を守ることに繋がるのです。
      さらに、治療の提供者の中には、治療は自発的であるべきであり、裁判所による治療の強制はおかしいという人もいます。しかし、第一に、そもそも自発的な治療などあり得ません。治療の背後には、必ず妻や息子、仕事、生命に対する危険等による強制があるものです。また、強制的治療が自発的治療と同程度の効果を有するとの調査結果もあります。
      私自身は、ドラッグ・トリートメント・コートは、治療の強制を行っているのではなく、司法による梃子入れを行っているのだと思っています。諺にもあるとおり、「馬を水場まで引いていくことは可能であるが、馬に無理矢理水を飲ませることは出来ない」のです。ですが、私は、「馬ののどを渇かせて、水を飲みたいと思わせることが出来る」のです。

      ―――ドラッグ・トリートメント・コートの抱える今後の課題について教えてください。

      ホラ判事 どうやってドラッグ・トリートメント・コートを維持していくかということですね。一つは財政面の問題もありますが、私が引退した後の後継者がいるかどうかという問題もあります。
      もう一つは、ドラッグ・トリートメント・コートの制度化の問題があります。ドラッグ・トリートメント・コートは、一部だけのものとしてではなく、全ての裁判所で、一般的なシステムとして確立される必要があるとかんがえています。

      ―――次に、ドラッグ・トリートメント・コートのプログラムについてお聞きします。その前提として、ドラッグ・トリートメント・コートの対象者のうち、デュアルダイアグノーシスの割合はどのようなものですか?

      ホラ判事 50パーセント以上です。

      ―――デュアルダイアグノーシスの人に対するドラッグ・トリートメント・コートの対応はどのようなものでしょうか。

      ホラ判事 それぞれの症状に対するトリートメントを並行して行っています。物質的依存症者は、同時に、深刻な精神疾患の問題を抱えていることが多いので、分離してトリートメントを行うことには意味がないと思います。
      以前は、例えば統合失調症の人は、自分のせいで病気になったわけではないかわいそうな人であると考えられたのに対し、物質依存症の人は、自ら物質を摂取したからこそ依存症になったと考えられたことから、分離したトリートメントが行われていました。
      しかし、そのような分離は妥当ではありません。例えば、HIV感染にしても、高いリスクを伴う行動により感染した人と、輸血により感染した人がいますが、両者は同じ病気として、同じ治療が行われています。従って、原因によってトリートメントに差異を設けることは妥当ではないと思います。

      ―――どうもありがとうございました。最後に一言お願いします。

      ホラ判事 最後に言っておきたいことは、ドラッグ・トリートメント・コートは本当に効果があるということです。
      確かに、治療に失敗する人もいますが、その割合は、高血圧やぜんそく、糖尿病の治療に失敗する割合と同程度にすぎません。高血圧の人のうち、60パーセントの人は、薬を飲まなければダイエットもせず、体操もしないため症状を悪化させています。ドラッグ・トリートメント・コートに来る薬物依存症者も同じです。つまり、失敗する人がいるからと言って、ドラッグ・トリートメント・コートの効果がないとは言えないのです。
      例えば、私たちも、具合が悪いときにお医者さんに行ったとして、毎日三回、二週間に渡って薬を飲むようにと処方された場合に、そのような指示を守るでしょうか。普通は元気になれば、薬を飲むのをやめてしまいます。それが人間というものです。ドラッグ・トリートメント・コートもそれと同じで、そこでの指示を守らず、失敗する人がいるのは当たり前なのです。

      忙しいスケジュールの中の短いインタビューでしたが、ホラ判事はこちらの全ての質問についてとても丁寧に答えてくださいました。
      今の日本にドラッグ・トリートメント・コートを設立することはまだまだ難しそうですが、米国でのドラッグ・トリートメント・コートの成果をお聞きしていると、日本でもこのような発想の転換が必要な時期が来ているのではないかと思われました。そのためには、政府や世論、裁判所、検察官に対する説得が不可欠となってきますが、それ以前に、薬物事犯の被告人と関わる機会をもつ弁護人の意識改革がまず必要だと思われます。

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