薬物依存症回復支援 — 薬物依存症は回復できる病です

ドラッグコートと心神喪失者等医療観察法


フリーダムニュース49号、50号とアメリカのドラッグコートの話題が続いています。

fp12

10月にはドラッグコートのホラ判事が来日されます。日本にもドラッグコートができればいいと私も思っていますが、しかし、何をドラッグコートのポイントと考えるのかによっては、全く違う制度になるのではないかと思っています。そのことを、先日成立してしまった心神喪失者等医療観察法との関係で、一つの問題提起として、考えてみたいと思います。

ドラッグコートとは何か

フリーダムニュースの読者はよくご存じだと思うのですが、もう一度、おさらいしておきたいと思います。
ドラッグコートの参加資格は州によっても違いますが、中心的な部分は薬物の自己使用・所持で起訴された人で、暴力事犯や薬物の売人は排除されます。これらの参加資格のある者は、一定の考慮期間を経て、a起訴事実を争って通常の裁判手続きを受けること、b有罪を認めて刑に服すること、c有罪を認めてドラッグコートに参加することの3つの選択肢のうちの1つを選びます。

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    • ドラッグコートは、裁判官、検察官、弁護人、警察、トリートメントサービスのコーディネーター等で構成され、薬物依存からの回復という共通の目標のために協力して参加者をバックアップします。そして、参加者はドラッグコートの決めたトリートメント・プログラムを受け、定期的にコートに出頭してドラッグテスト(尿検査)を受けます。ドラッグテストの結果が陽性すなわち薬物使用が明らかになっても、再使用は回復の途上で起きる予定された出来事なので新たな訴追の対象にはされません。参加者がトリートメント・プログラムを無事終了すると、ドラッグコートを「卒業」し、公訴は棄却されます。しかし、参加者がコートの提案を無視し続けたり、薬物事犯以外の犯罪を犯したりすると、トリートメントは打ち切られ、刑罰が言い渡されます。

      心神喪失者等医療観察法とはどんな法律か

      精神障害者当事者、精神科医療・福祉関係者、法律家などの強い反対にもかかわらず、この7月に、心神喪失者等医療観察法が成立してしまいました。この法律は、殺人、放火、強姦・強制わいせつ、強盗、傷害にあたる行為(以下「対象行為」という。)をしたときに心神喪失・心神耗弱状態(精神障害のために、善悪の判断ができなかったり、自分をコントロールできなかったり、それらの能力が著しく弱まっていたりする状態)にあったとされて不起訴処分や無罪等になって刑務所に行かなかった人に対し、裁判所が再犯防止のために強制入通院を決定するというものです。
      この強制入通院の要件は、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」とされています。「同様の行為を行うことなく」という部分でいわゆる「再犯のおそれ」の判断が要求されています。
      強制通院中、決められた遵守事項を守らなければ、強制入院に切り替えられることになります。この法律の中の強制通院は上限が5年とされていますが、強制入院には上限がなく、無期限に隔離されてしまうおそれがあります。特に、「再犯のおそれ」は抽象的には誰にでもあり得ることであり、これを根拠にすると一生出られなくなってしまう可能性すらあり得ます。
      本来、事件の際に、心神喪失であれば無罪、心神耗弱であれば必要的に刑が減軽されることになっています(刑法39条)。たとえ同じ結果が生じても、わざとやったこと(故意)と不注意でやってしまったこと(過失)とでは本人の責任の度合いは違うと考えられるのと同じように、病気によって自分が自分ではない状態で行ってしまったことについては責任を負わせられないと考えるのです。これは、責任主義という近代刑法の大原則です。ところが、この法律は、責任主義によって刑務所に行かない人について、いわば「落とし前」として刑罰に代わる制裁を科すものであり、責任主義に反します。
      この法律は、心神喪失・心神耗弱で事件を起こした人が対象であり、事件の種類も限られているので、薬物依存症とは関係ないように見えます。薬物依存症については責任能力に問題はない(心神喪失・心神耗弱にはあたらない)とされているので、基本的にはこの法律の対象にはなりません。ただし、薬物性精神病状態で上記のような事件を起こした場合には、心神喪失・心神耗弱状態とされることがあるので、そのような場合にはこの法律の対象になる場合もありえます。

      ドラッグコートと心神喪失者等医療観察法

      ドラッグコートは司法関与の下でプログラムへの参加を強制されるものです。心神喪失者等医療観察法の強制通院も司法関与の下で通院を強制されるものです。司法が関与して社会内での「治療」を強制する点では共通する部分があります。
      では、両者は同じようなものなのでしょうか?
      私は、この両者は以下の点で全く違うと思います。
      1点目は、ドラッグコートは本来刑罰の対象になる者に対して非刑罰化の方向で提供されるものであるのに対し、医療観察法の強制通院は本来刑罰の対象にならない者に対して刑罰に代わる制裁を加えて刑罰化するものであるという方向性の点です。
      ドラッグコートは社会内での処遇ですから、刑罰よりは自由に対する制約が小さいと一応言えるだろうと思います。しかし、医療観察法の強制通院は本来自由であるはずの者の自由を、再犯予防という治安目的で拘束するものなのです。
      2点目は、ドラッグコートでは再使用は犯罪とはされず、トリートメントを打ち切られるような事態となっても、本来科されるはずであった有期懲役等が科せられるだけであるのに対し、医療観察法の強制通院では遵守事項を守らなければ無期限の強制入院に切り替えられるかもしれないという不利益の大きさの点です。
      ドラッグコートには無事トリートメントを終えれば刑罰を受けなくて良くなり薬物依存からの回復につながるという「希望」がありますが、医療観察法にあるのは、失敗は許されず、場合によっては一生拘禁されかねないという「絶望」だと思います。
      3点目は、ドラッグコートにおいては、刑罰かドラッグコートかの選択肢があり、被告人がそれを選びますが、医療観察法の強制通院にはそのような選択肢がないという選択権の点です。
      これはとても大切なことだと思います。もちろん、ドラッグコートを選ぶかどうかの選択は強いられた選択であり、全く自由な選択ではあり得ません。それでも、実際に刑罰を選ぶ者も多いということは、刑罰とドラッグコートとの落差がそれほど激しくはなく、場合によっては刑罰の方がラクであるという事実と相まって、被告人にある程度実質的な選択権を保障しているのではないかと思います。
      そして、ともかくも自分で選択したということによって、プログラムに対する動機付けがなされるのだろうと思います。逆に、プログラムを受ける気が全くない者に強制しても、効果はあまりないのではないかと思います。たとえば、無理矢理ダルクに連れてきたとしても、本人にその気が全くなければ回復にはつながらないだろうと思います。
      また、薬物依存からの回復の過程には、生き方の変革を迫る部分があると思います。自ら求めてそういう場に身を置くのであればともかく、無理矢理やれば、それは人間の内面への過剰な干渉ではないでしょうか。それは、本人の同意が全くないところでやってはいけないことだと思います。
      医療観察法に対する反対運動の中で、この強制通院制度について、「また事件を起こすかどうか」の観点から常に監視され、通わなければ入院させられ自由を剥奪されるという脅しの下で通院したとしても、医療者との信頼関係は成立し得ない、医療者に心を開いて自分の症状を素直に話す気にはならず治療関係は成り立たない、という批判をしてきました。現在の措置入院や医療保護入院といった強制入院下でも薬物療法などの医療がある程度は成立しているのだとすれば、強制通院制度の下でも「ある程度の医療」は成立するのでしょう。しかし、患者が医療者に心を開くという関係を作るには、相当な困難が生じると思います。まして、選択の機会もないまま強制されて、NAのようなミーティングが成立するのだろうかと思います。
      ダルクのあり方は、強制しない、支配しない、排除しない、当事者同士の相互関係がポイントなのだろうと思います。それを損なわない形でドラッグコートのような一種の強制的な制度とどのように折り合いをつけるのかを考えたとき、少なくとも「自ら選択する」ことは必須なのではないかと私は思います。

      あまり整理できていないながらもこのような文章を書いたのは、薬物犯罪対策として、あるいは、刑務所の過剰拘禁対策として、ドラッグコートのような治療プログラムの導入を構想する議論の中に、自己決定・自己選択の契機という視点が抜け落ちているような不安を感じているからです。定期的なコートへの出頭、頻繁なドラッグテストなども重要な要素だと思いますが、それさえあればいいのかというと、大いに疑問です。
      たしかに、多くの人に治療プログラムにつながって欲しいという想いはありますが、しかし、効果の点と内心の自由への干渉という点を考えると、例を示して誘導することは良いとしても、一律に強制することは危険であり、最低限の自発性・選択制は必要なのではないかとやはり思います。

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