薬物依存症回復支援 — 薬物依存症は回復できる病です

サンフランシスコツアー報告 ’05


三月十九日に関空を出発、十四名のツアーメンバーでサンフランシスコを訪れました。今回のツアーは、刑務所などの拘禁施設内で薬物依存者へのトリートメントがどのように実施されているかを調査するのが主な目的です。

中見出し

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私たちは、三年前から大阪弁護士会(刑事弁護委員会)の協力を得て「拘置所へのインタベンション・プログラム」を実施し、拘置所の中にいる薬物依存者への面会を続けてきました。ダルクのスタッフや仲間の面会、書籍の差し入れなどによって、トリートメント・プログラムに興味を持つ人も少なくないのですが、その多くは再犯者で実刑判決を受け、刑務所に送られてしまいます。当然のことですが刑務所で過す長い刑期の間、回復へのモチベーションを維持するのはとても困難で、せっかくの「出会い」が有効に生かされないのが実情です。本人がその気になっても、すぐにプログラムを利用できないのですから、本当は「インタベンション」とはいえないのかも知れません。その悩みを少しでも解決するために、「拘置所や刑務所の中で使えるワークブックを作ってみては?」ということになり、アメリカでは収容施設の中でどんなことをしているか見てみよう、と企画したのが今回のツアーでした。
ツアーでは、サンマテオ郡の少年院と刑務所(ジェイル=ジェイルは郡の管理する刑務所、プリズンは州刑務所)、アラメダ郡サンタ・リタ刑務所を訪問しました。まず最初にこれら三つの施設の紹介をします。

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    • サンマテオ少年院は建て替えが始まっていましたが、今はまだ長年使われた、とても古い施設が利用されています。AからEまでの五つの棟があり、少年・少女たちが生活をしています。この施設でもっとも新しい試みは二〇〇三年から「少女のためのドラッグコート」が始められていることです。私たちは少年院の中を見学した後、判事やプログラムの責任者からお話を聞くことができました。
      「少女のドラッグコート」が対象にするのは、とても多様な問題を持つ少女たちです。ドラッグだけではなく、暴力、精神疾患、家族の問題などが混在しています。ここのドラッグコートのプログラムは、少年院に九〇日から一八〇日間、入所することから始まります。心身状態などのアセスメント、グループワーク、家族のグループなどが提供されるとともに、精神疾患がある場合は薬物の処方も行われます。少女たちはここで「自分の行動に責任を持つこと」や感情を安定させることを学び、家庭に戻る準備をします。試験外泊を繰り返した後、少女たちは自宅に戻りますが、週に三回はトリートメントプログラムに出席しなければなりません。またNAやAAへの参加も義務付けられています。そして三週間に一度、ドラッグコートに出廷し近況を報告する義務があるのです。これまで他人に認められたり、誉められたりしたことのなかった少女たちが、コートの見守りの中で新しい生き方を学んでいく、と判事はおっしゃっていました。

      続いて訪れたサンマテオのジェイルは殺人犯も多数収監するセキュリティレベルの高い施設でした。ジェイルに入る前にシェリフから「中で君たちが人質になっても解放のための交渉はせずに見捨てるから、それに同意しておいてほしい」と言われ緊張が高まりました。大きなビルがまるごと収容施設になっており、各階が独立したユニットとして運営されています。ここの二階には精神疾患があり、サポートが必要な人たちのためのデイケアが設けられており、該当する人たちは他の階に収容されて、ここで昼間の時間を過ごしています。その約8割が薬物とのデュアル・ダイアグノシス(依存症と精神疾患の合併)だということでした。
      またここの最上階では、「チョイシス」というセラピューティック・コミュニティ・タイプのプログラムが取り入れられています。「自分を変える」をテーマに、ミーティングやカウンセリングが行われています。Tシャツのペィンティングなど表現活動も重視されており、壁にはたくさんの作品が掲示されていて、刑務所の中ということを忘れてしまいそうです。ここのプログラムの責任者は「ジェイルなどの拘禁施設では十二ステッププログラムはあまり有効ではない」と話していました。
      私たちはここに入所している二人の方から話を聞くことができました。白人男性はマリファナを乱用、警察官を銃で撃った罪でここに収容されています。彼はこのユニットに来たときに、「あんまりフレンドリーな雰囲気なので冗談だと思った」そうです。ここで「正直に話すこと」「知ったかぶりをしないこと」などを学び、自分が変わってきたといいます。「ここを出たら何をしたいですか」という質問に「家族と一緒に住みたい」と答えた彼ですが、「実際には外に出る可能性はほとんどないけど」と付け加えたのが印象的でした。知らずに話していましたが彼はライファーズ(終身刑)だったのです。
      もう一人の黒人男性はここへ来るまでは「怒りで全身がいっぱいだった」そうです。一年二ヶ月経って、怒りへの対処の方法や自分の感情を見つめることを学び、はじめて謙虚さや思いやりということを知ったといいます。

      アラメダ郡のサンタ・リタ刑務所は広大な敷地を持つ施設でした。四千人を収容することができる全米でも有数の施設です。案内をしてくれたビーガスさんは収容されている人たちの特徴を次のように語りました。「自分に魅力がないと思っている、セルフエステームがとても低い、教育や訓練を受けたことがない、読み書きができない、貧しい家庭の出身、一般の社会で何の希望も持っていない」。このためここでは「肯定的な人生観を養う」ようにサポートすることをテーマにしています。
      教育や職業訓練などが行われている現場を見学しました。特にジェイルにいるほとんどの人が何らかのアディクションを持っているため十二ステップを使ったDEUCE(デュース)というプログラムが実施されていました。一時間四〇分のクラスを六〇回受けるというボリュームのある内容ですが、ジェイルだからこそ実施できるのかも知れません。担当のスタッフの方は「ジェイルの中はリカバリーにとってもいい場所」と語っていました。私たちはここで使用している分厚い四分冊のテキストをいただくことができました。今後のワークブックづくりにも参考になることと思います。

      今回のツアーで私たちが頻繁に耳にした言葉があります。「プロポジション・サーティシックス」。これは暴力行為を伴わない薬物使用などの軽犯罪については刑務所に送るのではなく保護観察下でトリートメントをする、というポリシーで、2000年にカリフォルニア州の州民投票によって有権者の賛成を得て、「物質乱用と犯罪の予防法」the Substance Abuse and Crime Prevention Act (SACPA)として立法化されたものです。この法律によって、多くの人たちが刑務所に送られるのではなくトリートメントを受けるようになりました。実際に二〇〇一年の一年間で、この法律に該当する有資格者は五万三千人を超え、この内の八二%である四万四千人がトリートメントを選びました。とても多くの人たちが対象となるためか、これまでのドラッグコートとちがい、法廷は治療の主体ではなく、関与はとても薄いものになっています。このためどれだけ効果があがるのか、否定的な意見も少なくありませんでした。
      一方、ブッシュ政権やシュワルツネガー知事は福祉関係の予算を削減しており、ドラッグコートの予算も削られてしまいました。ことカリフォルニアに関してはこれまでのようなコートの存続は困難になったようです。カリフォルニアのドラッグコートは、軽犯罪での逮捕者にトリートメントをマネージメントする役割を果たし成果を上げていたのですが、これをプロポジション36(SACPA)に譲り、長期に受刑している重罪犯を扱うことになるそうです。薬物問題についてはダイバージョンの方向は変わらないもののコストとの関係でもっとも効果的な方法は何か、政治的な思惑も絡みながら試行錯誤が続いているというのが米国の実態なのかも知れません。

      私たちのツアーは矯正施設のほかにクリニックやリハビリ施設、保険会社カイザーの運営する治療施設などへも訪問しました。これらについては後日、報告する機会があると思いますので、今回はふれませんでした。またプロポジション36についてはくわしい報告を今後掲載する予定です。

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