薬物依存症回復支援 — 薬物依存症は回復できる病です

法務省、法制審議会


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法務省・法制審議会において「被収容人員適正化方策に関する部会」が06年9月28日から、これまで約二十回にわたって開催されています。この部会は刑務所での収容人員が増加し続け、定員を超える「過剰収容」になっていることを受けて、「犯罪者の再犯防止及び社会復帰を促進するという観点から,刑事施設に収容しないで処遇を行う方策を拡充する」ことを目的に設けられたものです。二年半の議論を受けて「刑の一部の執行猶予制度に関する参考試案」がまとめられ、この中には「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」が盛り込まれています。

この「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」は、薬物の自己使用・単純所持により三年以下の懲役の言い渡しを受けた場合、その刑の一部を執行猶予することができるとしています。つまり、三年の実刑判決を受けても、懲役は一年で残りの二年の刑の執行が猶予されるということが可能になります。執行猶予中は「保護観察に付して薬物使用者に対する専門的な処遇プログラムを受講させる」ことが考えられています。なお執行猶予の期間は残刑よりも長くなるといわれています。
薬物事犯に対してはこれまで「厳罰化」の方針の下にいたずらに刑期が延ばされ、長期化する刑期が薬物依存症者の回復と社会復帰の妨げになっていることをフリーダムは主張してきました。また薬物依存症者に必要なものは「処罰ではなく回復への希望」であり「治療とリハビリプログラム」であることを、米のドラッグコートの実践と成果を紹介しながら訴えてきました。こうした経緯から考えると、この「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」は刑期を短縮し、社会復帰を早めるという点では評価できるといえます。しかしながら同時に私たちは次の点を指摘せざるを得ません。

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    • この制度が提言されたのは刑務所の過剰収容の解消が目的であり、薬物依存症者の回復の促進を目的としたものではありません。そのため薬物依存症者の回復にとって必要な支援は何か、という観点がすっぽりと抜け落ちているのです。部会の議論の中では、刑務所内での教育と連動する形で、執行猶予中は「保護観察に付して薬物使用者に対する専門的な処遇プログラムを受講させる」というイメージが語られていますが具体性のあるものではありません。
      現実に目をやると「薬物使用者に対する専門的な処遇プログラム」なるものは、わが国にはほとんど存在せず、一部の機関で「マトリックス・プログラム」を応用したサービスが始められているに過ぎません。この少数の公的サービスを除くと、民間施設であるダルクなどのプログラムしか存在しないのが現実です。
      審議会資料によると覚せい剤関係の「平成十七年の出所者数」は、六五五〇人に上ります。「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」が始まるとほとんどの人が刑の一部の執行を猶予されて出所すると思われますが、これだけの人たちに「薬物使用者に対する専門的な処遇プログラム」を提供できる体制が整っているとは思えません。薬物依存症者に対する外来プログラムが効果をあげるためには、少なくとも週に三回以上のプログラム参加が必要であるとの研究結果があります。またダルクでもビギナーたちは、毎日ダルクに通うことを進められています。仮に年間五千人がこの制度の適用を受けて「薬物使用者に対する専門的な処遇プログラム」を利用するとしましょう。一人が年間百回のプログラムを利用する、一回のプログラムには十人が参加と仮定すると、延べ五万回のプログラム開催が必要となります。これを全国50箇所の保護観察所が担うとすると、一つの観察所で年間千回のブログラム開催が必要となり、開庁日は毎日、朝から晩まで5回のプログラムを開くことになります。このためのプログラムの運営にあたるスタッフや関連事務を担当するスタッフの増員も必要となります。このように考えると「薬物使用者に対する刑の一部の執行猶予制度」を実効あるものにするためには、かなりの予算と人的な裏づけが必要なことがわかります。
      さらに指摘しなければならないのは、仮にこのような体制が整備されても、それだけでは、やはり不十分だということです。NIDA(米国立アディクション研究所)は「薬物依存治療の原則」の第一で次のように述べています。「同じトリートメントが、すべての人に有効であるとは限らない。個々人のいろいろな問題やニーズにあったトリートメントやインタベンション、サービスを提供することは、薬物依存者が家庭や職場・社会に帰り、生産的な役割を取り戻す上で、とても重要である」。つまり「マトリックス・プログラム」だけではない多様なサービス、プログラムが提供されなければならないのです。

      私たちは薬物依存に対する政策が、刑事罰を中心にした「施設収容」から「社会内」処遇へ、さらに治療的・福祉的支援を中心とした政策への転換されるべきだと考えていますし、その方向に向かいつつあるのだと確信しています。しかし支援の体制を整備せず、長い執行猶予をつけて「社会」に放り出すのであれば、それは「再犯」の山を築くことにしかなりません。そろそろ法務省や厚労省は依存症からの回復を支える財政的・人的な保障について、真剣に考えるべき時期なのではないでしょうか。

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