薬物依存症回復支援 — 薬物依存症は回復できる病です

文化に根ざしたケア:ネイティブ・カナダディアンの試み


今回は、前回のエッセーで触れたネイティブ・カナディアンの人たちの、文化に根ざした薬物依存からの回復のための施設について、少し詳しくご紹介したいと思います。

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侵略、抑圧と排除の歴史的・社会的背景が大きな原因となって、薬物・アルコール依存の問題はアメリカ大陸のネイティブの人たちの間で、ながいこと大きな問題となってきました。そのネイティブのコミュニティーの中で、その問題に対処しようという試みとして、伝統文化を取り入れた回復支援の方法が工夫されています。
伝統文化をどうやって回復支援に取り入れているかを学ぶことを目的に、2000年秋、以前の実習先からカナダにある「Nechi」(1)という施設にお邪魔しました。以前冬季オリンピックのあったカルガリーから車で1-2時間くらいのところにある、エドモントンという町にある施設です。その町の中の、インディアン限定居留地(リザベーション)の中に、その施設は作られています。


リザベーションというのは、政府によって決められたネイティブの人たちの居住地で、北川耕平さんによれば「拡大解釈された強制収容所のようなもの」(2)であり、その地域で最も住みづらい場所があてがわれることが多いようです。そういう場所に、現代アメリカ文化から独立した独自の生活を営もうとする意志が加わるせいか、リザベーションは空港があるほど大きな町の中にあってもそこだけ荒野のようだったりするようで、Nechiのあるリザベーションも、本当に何もない荒野といった感じのところでした。道路もあまり整備されていないので、Nechiまでは一番近くのバス停からでも歩いて3、40分以上かかるということでした。私たちが行ったのは11月中ごろだったので、エドモントンでは秋もすっかり深まり、そこに着いた日、リザベーションの中をえんえんと終りなく続く秋の雑木林を見て、なんだか涙が出るほど懐かしかったのを覚えています。はっきりとどことは覚えていないのですが、私が小さかった頃の日本のどこかにもあんな風景がまだ残っていたのかもしれません。

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    • Nechiで私たちを迎えてくれたのは、オジブエイという部族出身のネイティブ・カナディアン、ハロルドです。この施設で何年もの間、コミュニティーの内外に渡ってさまざまなトレーニングやワークショップを行ってきた人で、アルコール・薬物依存の回復にむけた活動だけでなく、ギャンブル依存や、自殺防止のプログラムなどにも携わっています。
      ハロルドは、ただこの分野の「プロ」であるというだけでなく、ご自分の体験を深めながらスピリチュアリティーを追求してきた、すばらしい先生でした。この研修はもともとは薬物依存からの回復支援の方法を学ぶためのものでしたが、ハロルドのおかげで、それは単なる「回復支援」の知識獲得のための勉強にとどまらず、伝統ある文化の一部を体験させてもらえるようなすばらしいものになりました。三泊四日、その施設の中でリカバリー中のクライアントや住み込みのスタッフと一緒に寝食をともにしながら、ミーティングに参加したりそれぞれのプログラムのスタッフのみなさんに説明会をしてもらったりしただけでなく、そこで行われている伝統的儀式を用いた回復支援活動にも一緒に参加させていただきました。そのもっとも重要な二つのセレモニーが、朝晩のスマッジングとスウェットロッジです。
      アメリカ大陸の先住民族には数多くの異なる部族があり、文化も言語もそれぞれ異なっていますが、世界観や精神性を共有しているという点では一つの文化とも考えられるかもしれません。文化の中で非常に重要な位置を占めるセレモニー、スェットロッジも、さまざまな部族に共通しているものの一つです。方法やロッジの作り方などそれぞれの地域で少しずつ異なってはいるものの、同じコンセプトのセレモニーがアメリカ大陸全域で、はるか昔から永いあいだ同じ方法で行われて続けてきているということです。スェットロッジというのは、大地に柳などの枝でドーム型の小さなロッジを作り、中を暗闇にして、焼けた石を入れ、水をかけて、真っ暗なサウナのような状態にして、そこでコミュニティーの仲間同士で祈る儀式です。異なる目的や部族によっていろいろなスタイルのものがあるようですが、この儀式の基本には、このドームは私たち生き物すべての母である地球の子宮のシンボルであり、暗く熱く水分に満ちたその場所で全身全霊を浄化する、という意味があります。暗闇の中、熱い蒸気の中で数時間にわたって祈りつづけるので、祈りとともに汗も涙も流しきり、心も体も綺麗に洗うことができるのでしょう。(3)
      薬物依存の問題の根底には、癒されていない心の傷があることがほとんどです。スェットロッジには、薬草を含んだ蒸気と熱で薬物によってぼろぼろになった体の傷を汗とともに洗い流す効果とともに、暗闇の中で語ることによって普段なら口にできないような心の深いところから発せられる祈りを聞き、自分も思いきり祈り語ることで、心の傷を癒すという重大な役割もあります。そういう点で、スェットロッジは、ネイティブのコミュニティーの中に広がるアルコールや薬物依存の回復に大きく貢献してきました。Nechiでも、毎日のようにスェットロッジが設けられています。
      施設内には3,4つのスウェットロッジが設けられてあって、それぞれそのロッジをリードするエルダー(長老)がおり、必要な人が必要なときにスウェットに参加できるようになっています。エルダーによってやりかたも少しずつ違うようです。
      私達がお邪魔したときには、ハロルドのはからいで彼の友人のエルダーの方が遠くからいらしてくださり、私達のためだけのスウェットをしてくださいました。指定された時間に施設の裏に設けられたスウェットロッジのある場所にいくと、秋のしんと冷えた空気の中、茶色に枯れた野原の草の中につくられたくぼみの中で、大きな火がすでに燃え盛っていました。ストーンピープルと呼ばれる特別な石が、そこで焼かれながら、スウェットロッジの始まりを待っていました。太陽は西に傾き、秋特有の金色の日差しを枯木立に投げかけ、誰もが無言で、ファイヤーマンと呼ばれる火を扱う人の動きをじっと見詰めていました。なんとも言えない、時も空間も超えるような気持ちになったのを今でも鮮明に覚えています。子供の頃の日本に帰って来たような、あるいは前世のどこかに時空が交差しているような、不思議な感覚でした。その不思議な感じは、狭いロッジに入り、何も見えない暗闇の中にすわり、ドラムの音、歌声、人々の祈りの声などを全身に吸収するようにして汗を流していたロッジでの数時間で、どんどんと強まって行きました。何も見えない暗闇なので、一人っきりでいるような感じでもあり、すべてとつながっているような安心感もあり、誰にも見えないので安心して泣きたいだけ泣き、汗とともに重たいものをすべて洗い流した感じになりました。痛みをうけとめてくれる大地、それを洗い流してくれる熱、その熱さがすべてを溶かし、生まれる前に戻ってすべてにつながったような、とても強烈な体験でした。この浄化と一体感が、「自分を周囲から切り離していく病」とも言われる薬物依存を深いところから癒していく効果があるのが、なんとなくわかる気がしました。特にそれが自分自身の文化の中で、先祖代代永いこと行われてきた儀式であればなおさらのこと、何にもまさる力強い癒しになるのだと思います。
      同じような「清め」の効果を持つ儀式に、「スマッジング」というものがあります。セージを焚いて、その煙を使って清めるのです。日本の焼香やお香を焚くのとちょっと似ているかもしれません。スェットロッジをするときもスマッジングしてから行いますし、あらゆる儀式で、清めをするためにセージによるスマッジングは使われます。
      Nechiのある施設には、パウンドメーカーズ・ロッジというレジデンシャルの薬物依存治療施設があり、さまざまなプログラムにしたがって一定の期間、「入院」して徹底的に依存からの回復を目指す人々が暮らしています。彼らの毎日のスケジュールで、全員毎朝朝食前と就寝直前に、建物の中心にある広間に集まって必ずスマッジングすることになっています。30人くらいが、一定の決まりにしたがってドームのなかに無言で入り、静寂の中、エルダーを囲んで輪になってすわり、エルダーがセージを焚くのをじっと見守ります。焚かれたセージが一定の方向に回され、一人一人、無言で煙を手ですくって頭や胸にかけながら、朝にはその日の回復のプロセスの無事を、夜には一日の無事への感謝を祈り、全身全霊をその煙で清めます。待っている人々は、清めている人を無言で見守ります。それは瞑想でもあり、祈りでもあり、仲間一人一人への無言のサポートでもあります。一通りスマッジングが終ると、全員が立ち上がって、お互い相手の名前を呼びながら一人一人ハグしていき、励まし、感謝しあって、ドームを出ます。私たちも参加させてもらったのですが、真摯な祈りと清め、そしてこの仲間からの熱い気持ちとサポートは、本当にパワフルだということがちょっと体験しただけではっきりと伝わってきました。
      日本にも、風土に根ざした、暖かい人間関係を生かしてお互いの苦しい時を支え合い癒し合うような伝統があったはずですが、それが現代社会の生活の中で生かされることはどんどん少なくなってきているようです。この研修を通してハロルドから学んだことの一つに、「文化の育む精神性の大切さ」があります。文化は人の一部であり、その中で育まれた自己の精神性は、個人から家族、先祖、コミュニティー、地域、自然などに広がっていく土壌となること。それゆえ、文化を奪われたり破壊されたりすることは、個人をそのようなつながりから切り離すことであり、自尊心をなえさせ、自己のアイデンティティーを混乱させること。それがいかに薬物依存やその他の心の問題に発展していくかということを、文化を根こそぎ破壊されてきたネイティブの人たちの歴史と、現代のネイティブの人々の直面している問題を聞くなかで、あらためてつくづく考えさせられました。つい最近まで、スェットロッジなどのネイティブのセレモニーの多くは、政府によって執り行うことを禁止されてきました。ネイティブの人たちはそんな社会の抑圧の中で、文字通り命がけで、あらゆる手段を使って隠れながらもセレモニーを執り行い、守りつづけてきました。そのような歴史を通して彼らが私達に教えてくれることに、現代社会の波の中で己の文化というものを見失いかけている私たちは、今、真摯に耳を傾けるべきなのかもしれません。

      <参考>
      (1)Nechi ウェブページ http://www.nechi.com
      (2)(3)スェットロッジを数回体験しただけの白人が自分たちだけでスウェットを始め、死者がでる事故なども起きて問題になっています。危険なだけでなくネイティブの文化に対し問題も生み出すので、決して真似しないでください。

      最近日本でも、スェットロッジがテレビで紹介されたりして、ネイティブ・アメリカンの文化が広く人気を集めていると聞きました。ネイティブ・アメリカンの文化は、現代社会を生きる私たちに、自然や魂とのつながりを取り戻すためのヒントとして、多くの示唆を与えてくれます。と、同時に、どのような文化も歴史を含めた全体を見なければ理解はできないし、理解しようとする努力なしでは異文化への興味はその文化の傷つきにもなりえることを意識していなければならないと思います。大切な文化が遊びごころで他人の手によって切り取られ売られていくことが、いかにその文化を傷つけるかをハロルドとの対話を通して何度も考えさせられました。それは、日本やアメリカのような消費文化の発達した社会に生きるわれわれにとって、とくに大切な教えだと思います。ニチの活動とネイティブの文化を紹介するにあたって、私がもっとも気をつけようと思っている点です。

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