薬物依存症回復支援 — 薬物依存症は回復できる病です

サンフランシスコ・ベイエリアの鑑別所にて


fp16

サンマテオ郡のJuvenile Hall (少年院・鑑別所)

昨年の9月から、サンフランシスコの南側にあるサンマテオという郡の鑑別所・少年院で働いています。ここにいる子供たちは、最年少は8歳、最年長は18歳で、4対1の割合で男子の方が多く、男子棟が4つ、女子棟が1つで構成されています。
ここには、司法・福祉・医療・警察の四者がかかわっています。私が所属しているのは、福祉・医療の一部である「メンタルヘルス・ユニット」です。セラピスト、カウンセラー、サイコロジスト(心理学者)、精神科医など、30人以上のスタッフがいて、200人前後いるここの子供たちに精神的なサポートを提供しています。
私はそのさまざまなスタッフの中の「サイコロジスト」の卵として働いているので、スーパーバイザーについて触法行為が精神的な原因で起きていると思われる青少年のための精神鑑定をすることと、危機介入のホット・ラインサービス、そして所内・院内の少年・少女に短期間のサイコ・セラピーをするのが役目です。
少年院では、子供たちをとりまく外的状況がつねに「大時化状態」といえるほどうねりにうねっていて、仕事もセラピーもそのうねりに大きく影響を受けるので、そのうねりを楽しむように仕事をするという「サーファー作戦」が必要となるようです。個人的には、サーフィンよりもダイビングの方が好きなのですが・・・。

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    • 精神鑑定

      精神鑑定は、私ひとりでも昨年一年の間に合計して30近く行いました。同じことをしている人が他に3人いるので、合計でこの郡だけで90件もの精神鑑定の依頼があったことになります。多いときには毎週1つの割合で鑑定書類を作らなければならないこともありました。もっとも多く使ったテストは「ロールシャッハ」です。日本でもおなじみの、インクのしみを見て答えるというテストです。私事になりますが、私は昔、「あしたのジョー」が大好きで、密かにファンクラブを作っていたことさえありました。この漫画には、ご存知の方も多いかと思いますが、矢吹丈という宿無しの少年が罪を犯して鑑別所に送られ、精神鑑定を受けるシーンがあります。幼心に、そのシーンにおける精神科医の無理解ぶりやおろかさに、馬鹿な大人の象徴を見たように感じていました。初めてクライアントの少年にロールシャッハをしたとき、突然忘れていたその「あしたのジョー」のワンシーンを思い出し、「ああ、私は実は知らず知らずに矢吹丈をテストしたあの精神科医になりさがってしまったのだ・・・」と急に自分が恥ずかしくなったものです。
      あの漫画のイメージで、少年少女たちはみな「テスト」を嫌い、反抗的な態度でいやいやテストを受けるだろう、私は彼らにとっての「敵」「悪者」になるかもしれない、と予想していましたが、実際、その予想は大きく裏切られました。(矢吹丈はやはり特別だったのですね)多くの子供は、今まで誰にも自分のことを聞かれたことがなかった、自分のことを話すのは楽しい、と、私からの質問に喜んで答えてくれましたし、ロールシャッハも面白がって受けてくれました。それほどまでに、成長する過程で、自分に関心を向けてくれる大人がいなかった、大人や周りからケアされずに生きてきた、ということかもしれません。
      私のスーパーバイザーの1人によると、少年は数が多いせいもあり、中には過去の体験や生育歴に関係なく法を犯す行為を繰り返すタイプ(反社会的パーソナリティー)のものもいるが、反面、ここの少女たちの98%は、過去になんらかの深刻な虐待を経験してきている、ということでした。少年たちの中でも、精神鑑定を依頼されるような少年の場合には(私が受け持ったケースのうちではほぼ8割)小さいころに虐待をされたり、DVを目撃したりして育ったというケースが多いのです。ロールシャッハのような心理テストをしても、過去のこころの傷、外界や他人への恐れや過剰反応など、虐待のせいと思われるテスト結果が驚くほどくっきりとあらわれる場合も多いのです。そして、そういう過酷な過去を持った子供ほど、自分の状況をよくわかっていて、ロールシャッハくらいで反抗的になったりはせず、逆にその機会を楽しみ、受け入れる場合が多いようです。この精神鑑定のためのテストとインタビューが、彼らへのサポートのきっかけとなったり、援助の始まりとなったり、彼らがこころを開く最初の扉となったことも稀ではありませんでした。

      虐待とDVと違法薬物

      存在してもしなくても、親が親としての役割を果たしていない場合。衛生不良や栄養失調、ネグレクト、さまざまな身体的虐待、心理的虐待、そして、男女を問わず、家族(実の父親や兄、叔父、いとこ、母の再婚相手など)からたびたび性的虐待を受けた子供。また、父親が母親を意識を失うまで殴り続けたり、母親に銃を突きつけて脅したりするのをたびたび目撃して育った子供、父親が母親をレイプするところを見せられて育った子供も少なくありません。このような子供たちにとって、この世は敵意と悪意に満ちた恐ろしい場所であり、希望や愛といった肯定的なものの根を何も育てないまま、「サバイバル」だけを目的にして生活しながらティーンになります。そうやって思春期を迎えた子供は、自我や性の目覚めとともに、混乱が激しくなり、自己像がどんどん低くなり、生きていくことに途方にくれたり、鬱になったり、攻撃的になったり、自己を傷つけたり(リストカット、薬物乱用、自殺未遂など)する場合が多いのです。解離性障害などの精神的障害が現れてくる場合もあります。そういう彼らが、通りで簡単に手に入るさまざまなドラッグを使うようになるのは、いかにも自然な流れでもあります。
      鑑別所・少年院に来る子供たちの中には、虐待やDVの被害をうけてきた子が多いのとおそらくは同じくらいの割合で、違法薬物が逮捕の理由の一つとなっている子供の数もかなりの割合になります。違法薬物を使いはじめる原因にもいろいろありますが、ここに来る子供たちの場合には、ティーンが薬を使う原因としてよく聞かれる「退屈さをまぎらわすため」とか「人生の模索の一環として」「実験的に」というよりは、過酷な現実を「生きていくすべ」として、こころの痛みを忘れるために使う場合が多いようです。彼らの生きてきた状況を知っていくうちに、その薬の種類や依存の程度にもよるのですが、「せめて薬があってよかった」と思うような場合もあります。そう思えるのは、今までそうやってなんとか生き延びてきてくれたのだから、いま少年院や養護施設に入るなどの大きなきっかけを経験して、これからは薬を使わないでこころの傷を癒し、健康な自己を育て、薬にコントロールされない人生を作り上げていくこともできるはずだという信念もあるからでしょう。
      私がこの一年という短い間に出会った少年・少女たちの中にも何人も、ここに来てから初めて24時間以上薬が切れた、という子供がいます。うつが激しくなり、体を動かせなくなり、感情の起伏が激しくなって、独房へと送られ、私たちメンタルヘルス・ユニットのホットラインに院内のスタッフから電話がかかってきます。そういう電話に対処し、離脱症状を示している子供のケアをするのも、私たちメンタルヘルスのスタッフの役目です。ベッドさえない冷たい小さな独房で、自殺の危険を考慮して与えられた、袖のない毛布を縫いつけただけのおかしな服を着せられて、丸くなって耐えている彼らの中には、人間それほど涙を出せるものなのか、というほどに泣き続けるものもいます。泣ける子供は幸いです。泣く、ということは、魂を洗うことでもあるのでしょう。泣き続けて何時間もたち、離脱症状も消えたころには、目つきがすっかり変わって落ち着く子供もいます。
      怪我をしたら、まずは傷口を洗わなければ治癒できないのと同じように、こころの傷を癒すためにもまずはそうやって、思い切り泣くことでこころを洗う必要があるのかもしれません。

      大人の役割

      子供相手の仕事をしていると、人間は時代とともに成長するのが難しくなってきているのではと思わされることがあります。どんな状況、どんな家族に生れ落ちても、健康な心を生き生きと育てながら大人になることは、今の社会では、どの国でもとても難しいのではないでしょうか。
      それでも生きてきた、そして大人になって、なんとかこのニュースレターが手にできるようなところまで生き延びてきた私たちは、そういう現代社会のサバイバーです。
      マーティン・ルーサー・キング・ジュニア・フリーダム・センター(MLKFC)という、ティーンに非暴力を教えるための活動でも、ティーンのこころにもっとも訴えかけたのは、かつてギャングとして活動していた若者のスピーチでした。
      私たちに人間にとって何よりも必要なのは「希望」です。サバイバーは、その存在自体が「希望」の象徴でもあるのです。
      キング牧師の有名な言葉があります。「暴力に暴力で応えることは、暴力を増大させるだけだ。それは、星の見えない夜の闇に、さらに深い暗闇を加えるのと同じこと。闇で闇を取り払うことはできない。光によってこそ、それができる。憎しみで憎しみを消すことはできない。愛によってこそ、それができる。(風砂子デアンジェリス訳)」
      深く濃い闇を抜けて光へとたどり着いた「サバイバー」は、闇を取り払う「光」になるのだと思います。薬物依存から、虐待から、犯罪被害から、さまざまなトラウマから、そして底知れない人間の心の闇の奥から、光に向かって生き延びてきた人たちにこそ、この難しい現代社会を生き抜く、そして社会を変えていく力を、子供たちや他の大人たちに与えてくれるのでしょう。

      これで、この連載を私が担当するのは最後になりました。次回からは、サンフランシスコで活躍するセラピスト、藤原千枝子さんが担当です。彼女はすぐれたセラピストであるだけでなく、すばらしい文筆家でもあるので、みなさんぜひ期待してくださいね!

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