薬物依存症回復支援 — 薬物依存症は回復できる病です

自分を一番に考える


前回、自己と向き合うことは、誰にとっても非常に難しくてつらい作業だと書いた。ましてや、薬物を使用してきた人にはなおさら苦しい。薬物はいわば心の痛み止めのようなもので、痛み止めが切れた後、心の傷は以前よりもっと激しくうずくからである。

fp25

前回、自己と向き合うことは、誰にとっても非常に難しくてつらい作業だと書いた。ましてや、薬物を使用してきた人にはなおさら苦しい。薬物はいわば心の痛み止めのようなもので、痛み止めが切れた後、心の傷は以前よりもっと激しくうずくからである。
自分と向き合うのが苦しいとき、人は何をするだろうか。大抵の場合、他人の世話を焼くのである。サンフランシスコ郊外の薬物依存治療施設で働いていたとき、自分自身とても大きな問題に苦しんでいるにもかかわらず、自分のことそっちのけで他人の世話に夢中になる人たちに数多く会った。彼らに、自分のことを一番に考えてもらうのは、実に難しい。

私のクライアントに、19歳の少年がいた。彼は母子家庭で母親に虐待されて育ち、ついに高校時代のある日、家を追い出されて路上生活を始めた。その過酷さから薬に手をだし、うつ状態になって、私がセラピストとして通っていた薬物依存治療の居住施設にやってきた。

  • 続きを見る
    • 私との週に一回の個人セッションで、彼は多くの時間を、戦争や不平等、環境破壊が蔓延する世界の現状に憤り、自分が持つ壮大な夢を語ることに費やした。彼の夢は、環境問題を解決する会社を立ち上げることだった。テレビでよく見かける著名な研究者のところへ、「がんを治療する画期的な療法を見つけた」と電話をかけたという話をしたこともある。なんでも、どこかの武道の本に書いてあったのだそうだ。「動物の殺傷は許されない」と完全菜食を貫き、菜食主義に理解のないスタッフと食事のことでもめることもよくあった。
      彼の話は、確かに若者らしい正義感と理想主義に満ちあふれており、一見したところ青春時代の一つの典型と見えないこともない。が、よく観察してみると、彼自身の現実がそこからすっぽり抜けている。彼には、ほとんど何もない。帰る家もないし、高校は当然中退してしまった。この施設を出たらどこに行く事になるかも分からない。それなのに自分のことよりもずっと、世の中のことを心配している。自分について話すことと言えば、現実離れした計画ばかり。目先のことを、地に足をついて考えることができない。
      彼が一度、私の前でとめどなく涙を流したことがあった。理由は彼自身のことではなかった。彼の親しい従兄弟が軍隊に入隊したという連絡を受けて、非暴力主義者である彼は、戦争に行って人を殺すかもしれない従兄弟が不憫で涙にくれたのである。憤りや共感の涙を向けなければならないのは、まずは彼自身の傷ついた過去に対してであったのに。
      私は、彼とのセッションを通じて、何とか彼が、その世界に向けるあふれんばかりの関心と同情を自分に向けられないか努力してみた。でも、自分のことになると、彼はぴんと来ないようだった。人から大切にされた経験の少ない彼は、自分を本当の意味で大切にすることを学ばないで今日まで来てしまったのだ。結局彼は、スタッフとのトラブルが昂じ、途中でプログラムから抜けていった。行き先は、ホームレスのシェルターしかなかった。
      同じ施設にいた四十代前半の女性は、若くして独身で子どもを生み、すでに孫までいた。彼女は若いころからアルコール中毒に悩み、何度か治療施設への出入りを繰り返していたが、今回はプログラムに真面目に取り組み、「今度こそきちんと卒業する」と言って、私との個人セッションも進んで受けていた。
      しかし、プログラムが進み、だんだん自分の内面に触れる機会が多くなると、彼女は落ち着かなくなった。そして急に、面倒を見てくれる人のない祖母が家に残されていることを思い出し、「自分が世話をしなければ」と言い張って退寮してしまった。スタッフが、「せっかくここまで頑張ってきて、卒業はもうすぐだから」と説得してもだめだった。
      この2人は、いわゆる「共依存」であると言えるだろう。一般的に、「共依存」的性格の持ち主は、薬物・アルコール依存者のパートナーということになっているが、どうしてどうして、依存者本人が共依存体質であることも多いのだ。
      これは別のホームレス支援センターでの話だが、あるホームレスのカップルがそろってグループセラピーに顔を出した。女性の方は、グループの間じゅうずっと、パートナーの男性の話ばかりしていた。「彼はこういうところが問題だ」「そうなったのは、過去にこういうことがあったからだ」「これから彼は、こうやって生きていけばいい」・・・などなど。横で当の本人は、「いやあ、やつは俺より俺のことが分かるんだ」と笑っているだけで、ほとんど何も発言しなかった。繰り返すが、彼らは2人ともホームレスである。彼女自身、文字通り何も持っていない。自分のことで心配しなくてはならないことは山ほどあるはずだ。それなのになお、他人の世話と分析に全力を傾けているのである。
      こうした現象から言えるのは、自分に向き合うということは、ある意味、ホームレスという過酷な状況に置かれるよりも難しいということだ。他人の世話に集中している限り、死んでしまいたいほどのうつ状態にはならないだろうし、将来の不安から呼吸ができないほど苦しくなることもないだろう。自分が過去に親から受けた虐待についても考えなくて良いし、パートナーから殴られ続けたことにもふたをしておける。
      しかし、そのつらい作業をくぐり抜けなければ、真の意味での回復はあり得ないのだ。そのためには、信頼できるグループや援助者の存在が必要となる。ひとりで行うには、あまりにも難しい作業だからだ。
      ただ、ちいさなステップなら、自分一人でも踏み出すことはできる。自分の欲求に耳を済ませ、それを実行してみるのだ。たとえば、朝起きたときに、「今日自分は(パートナーや子どもでなく)、何を食べたいのだろう」と考え、それを料理してみる(あるいはそれが食べられるお店に行く)。疲れたと感じたら休む。だれかと映画に行くときは、自分の観たい映画を言う。ちょっとした余分なお金があれば、自分のために好きなものを買う(薬物ではありませんよ、念のため)・・・などだ。
      相手の喜ぶ顔を見るのがこれほど好きなあなただ。自分が喜ぶ顔も見たくありませんか。自分を一番に考え、自分が幸せになることが、回復への第一歩なのである。

      (プライバシー保護のため、クライアントの個人情報は変更してあります)

      藤原 千枝子(ふじわら ちえこ)新聞記者を経て渡米、サンフランシスコのカリフォルニア統合学研究所にてカウンセリング心理学修士課程終了。サンフランシスコとその周辺の複数のNPOにて、カウンセラーとして個人、家族、グループセラピーならびに子供のプレイセラピーを行う。05年1月にカリフォルニア州心理セラピスト(Marriage and Family Therapist)の資格取得。今春に帰国、札幌に「プレマカウンセリングルーム」を開く。専門はハコミセラピーとトラウマ治療。ホームページはhttp://www.geocities.jp/premacounseling/index.htm

大阪DARCサイトへのリンクバナー画像

大阪DARCスタッフのブログへのリンクバナー画像

Freedomお問い合わせ・電話相談 tel:06-6320-1463

薬物依存電話相談 毎週土曜日PM3:00-7:00 tel:06-6320-1196


Top