薬物依存症回復支援 — 薬物依存症は回復できる病です

日本にドラッグ・コートは必要か


「違法薬物を使うと犯罪になりますが、それは法律で違法と定められた薬物を使ったからなのであって、薬物をとる行為そのものが罪というわけではないのです。」

fp11

これを読んでいるみなさんは、こう聞いたらどう感じるでしょう。「何を言っているんだ。犯罪は犯罪だ。」と思うでしょうか。でもこのニュースレターを読むくらいの方だったら、「当たり前じゃないか。いまさら何を・・・」と思うかもしれませんね。

違法薬物を使うことは、もちろん「違法」です。しかし、それが法律で違法と定められている理由は、薬物の影響による犯罪を防ぎ、また本人や近しい人の薬物依存によって人生が暗転していくことを防ぐことであり、その薬物摂取という行為が「罪」だからではありません。もしそうなら、お酒を飲むことも、煙草を吸うことも、コーヒーやお茶やコーラなどカフェイン入りの飲み物を飲むことも、甘いものを食べることも、すべてが罪、ということになります。変性意識を生み出す薬物の使用は、人類の歴史の中で古くから存在し、異なる文化で異なる薬物が使われてきました。薬物使用についての価値観は、文化の一部であるともいえるように思います。法律違反であるという点を除き、行為の本質を見た場合、薬物使用が、暴力、婦女暴行、殺人、強盗、詐欺などの犯罪行為と質の違うものであることは、とても大切な、しかし社会的制約や偏見のもとにしばしば忘れられがちな事実ともいえるのではないでしょうか。
そして、「依存」はまた別の問題、うつやPTSDなどと同じ、こころの健康状態という領域の話です。

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    • 今年3月、大阪から、フリーダムのみなさんがサンフランシスコに研修にいらっしゃいました。今回の研修の一番の目的でもあったドラックコートを中心に、ヘイト・アシュベリーのフリー・クリニックや、オークランドのレジデンシャル・センターなど研修場所を探して連絡をとり、スケジュールを作るという形でお手伝いをさせていただきました。
      この研修の大きな成果の一つは、アラメダ郡のドラックコートのジャッジ、ホラさんの日本の講演会が決まったことでした。ホラさんは、カリフォルニア大学バークレー校のエクステンションで、専門家にむけてドラックコートについて講義したり、論文を出したりと、ドラックコートの普及にむけて精力的に活動されています。ホラさんを紹介してくれた、私の学校でも「薬物依存と家族」を教えている薬物依存の専門家、ピオトロウスキ博士によれば、彼女は「講義もとても上手なエネルギッシュなジャッジ」ということでしたが、実際会ってみると、ホラさんは想像以上にパワフルな、明るいエネルギーの塊、という感じの方でした。
      ホラさんとの日本講演会にむけての打ち合わせは、サンフランシスコ研修の最終日に予定されていました。しかしフリーダムのみなさんがサンフランシスコにいる間についにイラク戦争が始まってしまい、反対運動のデモでサンフランシスコ市内はどこも大混乱となり、待ち合わせの駅でちょうどデモと警官隊が衝突して大騒ぎになってしまったのです。それでも待ち合わせ時間ぴったりに現れたホラさんは、混乱をものともしない涼しげな顔で、「催涙ガスでもまかれたら面倒だから上へいきましょう。」ときびきびと私達をデパートの上階のレストランへ連れて行ってくれました。
      「日本文化は昔から大好きなのよ。家にも日本の古い家具を置いたりして、私の前世は日本人だったんじゃないかと思うわ。でもね、最近知り合いが、東京の女の子のはやりのファッションといってシースルーのスカートの写真を送ってきたのよね。あれ、本当なの?」などと、会ったそうそう笑いをふりまくホラさんに、フリーダムからの参加者の一人が、「日本では裁判官というと遠い人、冷たい人、という印象があったけど、ホラさんはすごくきさくで暖かくて驚きました。」と言いました。ホラさんは笑って言いました。
      「ドラックコートでは、今までの枠組みを越えていく、チームワークの概念が必要なの。ジャッジもコートの外に出て、いろんな専門家と協力していかなければならない。ドラックコートの目的は『罪』を相手に裁くことではなく、『人間』を相手に、その人の人生が依存から回復するのをサポートすること。だから『伝統的な』やり方を好む人は、この仕事にはつかないの。だからね、アメリカでも、『伝統的』なジャッジには冷たい人が多いわよ。ドラックコートのジャッジはみんなきさくであったかいけどね。」
      「裁く」という理念ではなく「回復のサポート」を目的としてドラックコートが開かれていることを象徴するのは、「薬物使用試験」かもしれません。ドラックコートを経て回復に向かうクライアントは、一定の期間、定期的に薬物の使用をチェックするため、尿検査を受けなければならないことになっています。そのことに対して、ホラさんは次のように言いました。「検査結果で陽性と出た場合、私達が非難するのは、クライアントが『使っていません』と嘘をついたときだけ、その、嘘をついた、ということに対してだけです。薬物の再使用は、回復の過程に起こる当然のプロセスです。何がきっかけで再使用したのか、どうしたらそれを防げるか、一緒に考えていくのが私達の仕事なのですから。ですから、再使用したそのことに対して非難することはありません。再使用も、新しい生活パターンの中でおきる様々なトラブルも、すべて含めて、一緒に回復の道を探していくのが私達の仕事だということを、クライアントのみなさんにわかってもらいたいのです。」
      ドラックコートでは、違法薬物の使用という「違法行為」を、「罪」としてではなく、「こころの回復のためのきっかけ」ととらえ、それに取り組んでいるということでしょう。その理念や方法は、しかし、アメリカにおいても昔から存在していたというわけではなく、増え続ける薬物の使用や依存、それらの引き起こす様々な犯罪や悲劇の増加に、アメリカ社会が直面した上で、どうしたらこの課題に対処できるか、試行錯誤の上に生まれたものです。「私達は、ですから、何が問題をさらに悪くし、何が効果的なのか、経験上学んできているのです。その結果がドラックコートです。」とホラさんは言います。

      ホラさん日本講演会の開催が決定したことで、先日、日本に帰ってきた折、ある司法関係の専門家の方々とお話する機会に恵まれました。ドラックコートについて、どういうことがどういう理念でなされているのか、また、薬物使用をとりまくアメリカの現状についても知りたいという積極的な方々がお集まりになっていました。そこで、まず私は、この文章の冒頭でしめした「罪ではない」ということをお話しし、依存には処罰ではなくケアが必要であること、ドラックコートの主旨などを簡単に説明しました。
      そこで、ある方が、現在日本でされている対応はドラックコートという新しい裁判の方法を作らなければならないほど悪いものではないとお話になりました。つまり、「処罰よりも回復へのサポートを、希望を」というテーマは、現在すでに日本の司法の現場にも存在しているということです。薬物使用で刑罰を受ける人は、一般の刑務所でなく医療刑務所・医療少年院に送られ、そこで治療を受けるということ、それ以外にも少年院や刑務所に臨床心理士が配置され、こころのケアも積極的に行っているということで、つまり「処罰よりも治療を」ということは実践されているというのです。医療刑務所とはいえ刑務所であることには変わりないのですが、ドラックコートではクライアントをケアに結び付けることが主であり、刑務所ではない治療施設に入るか、地域で生活しながら回復にむけた努力を続けるよう指導される、というと、薬物問題だけを「特別扱い」すると、他の犯罪もそこに逃げ込むようなことになりかねない、という危惧も聞かれました。
      また、アメリカと日本の薬物をとりまく現状の違いを指摘なさった方もいました。日本ではアメリカほど違法薬物が蔓延しておらず、そのことだけを対象にしたコートが果たして必要なのか、という疑問です。
      日本とアメリカでは確かに状況が異なります。しかし、アメリカを見本にすることを強いられてきたような戦後の日本社会の変遷を考えてみると、薬物問題はもちろん、他の多くの現代社会の問題について、アメリカと日本の「違い」だけでなく双方の「共通点」にも焦点をあてて考えた方が、私達が得ることは大きいのではないかと思います。
      かつて、臨床心理やセラピー、こころのケアという概念がまだ日本社会に根付いていなかったころ、アメリカの心理療法を日本に紹介しよういう試みに対する多くの専門家の反応は、「アメリカは病んでおり、こころの問題も多いだろう。そういう社会文化の中では、セラピーも役にたつのであろう。しかし日本は違う。日本には美しい価値観があり、助け合い、また「頑張る」「我慢」などの精神があり、アメリカほど心理療法が必要とは思われない。」というようなものだったと聞きました。そして大震災があり、自殺者が増え、問題から目をそらせなくなってきた今、心理療法を求める人の数は増える一方です。薬物に関しても、問題は同質です。「日本では薬物問題は少ない」という社会的な誤解を解き、現実に目をむけ、薬物問題の「先駆者」としてのアメリカから学ぼうとすることは、とても意義あることと思います。
      このミーティングで、問題意識のある専門家の間でさえ、アメリカの方法を日本に取り入れようとすること、また、薬物使用と「犯罪」を切り離して考えようとすることに、かなりの抵抗があることを感じました。普段同じフィールドを専門とする人の中にいるとわからなかったことで、驚くとともに、私達が越えていかねばならない課題を知るためのきっかけにもなったと思います。
      ドラックコートは日本に必要か。そのことを論じる前に、まずアメリカでドラックコートが成功しているのは何故なのか、どういう点が優れていて、どういう点を学ばねばならないか、しっかりみつめる必要が、日本の問題に取組もうとする私達にあるのだと思います。その上で、アメリカからの直輸入ではなく日本に合った方法というものを考えていくべきなのかもしれません。ホラさんの講演会には、ぜひ多くの方が参加されるといいなと思っています。

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