出世しない貧乏を楽しむ人生

おはこんばんちわ(これがわかる人は漫画あられちゃん世代)!!いい加減な人生を謳歌している保健師じゅんじゅんです。あるきっかけからアルコール依存症をはじめ、嗜癖行動の問題の勉強をするようになり、いろんな人たちとの出会いがあって、いつしか仕事で担当する業務とは関係なく、アディクションがライフワークになり、今の『私』がいます。

アディクションをライフワークにするようになったある『きっかけ』

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保健師になって未だ日も浅いある日のことでした。地域の派出所のお巡りさんからアルコール依存症じゃないかと思われるので、一緒に訪問してもらえないかという依頼がありました。お巡りさんはその男性の妻から飲んでは暴力を振るわれているという相談を受けていました。まだDVなんて言葉が日の目を見ていなかった時代です。仕事もしないで、昼間っから飲んだくれている。すぐ暴れて妻に暴力を振るう。どうみてもアル中だと思われるが保健師の目で見て欲しいというお話でした。アル中・・・えっ!!自信ないよ、どうすりゃいいのよ、でも出来ないなんて言えない、相談しようにも先輩たちは・・・・・・。 ともかくその派出所まで行き、お巡りさんと一緒に訪問しました。薄暗い家の中から顔を出したその人は既に強い黄疸が見られ、腹水が溜まっていると駆け出し保健師でも明らかにわかる状態でした。恐らく肝硬変も末期だったのでしょう。そんな状態にもかかわらず飲み続けている、なぜか眼だけはぎょろついているその人はこちらを睨みつけると、すぐに奥へ引っ込まれてしまいました。暴力の対象は妻、黄疸も出ているにもかかわらず、全く医者に掛かっていないその人にどうしたらいいか手立てを見つけられず、何の支援もしないで気まずさを抱えたまま派出所へ帰ってきてしまいました。その後妻は、自分の意志で夫の暴力から逃れるために離婚するつもりで家を出たと聞きました。けれどもその数日後、いつの間にか暴力を振るう夫のもとに妻は戻っていました。何でひどい目に遭うのがわかってるのに戻っていくんだよ、もう離婚するって言ってたのに・・・沸々と沸きあがってくる疑問、それに比べ手に職をつけていた一人息子さんは、こんな家で育ったのにどうしてこれほどまでに優しい紳士的な人なの?・・・・・・今から思えば教科書に出てくるような典型的なアルコール依存症者を抱えた家族でした。けれども、そのときの私はその家族のSOSを感じることが出来ませんでした。もちろん暴力を受けている妻のSOSも。

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    • 何もしないうちにしばらくしてお巡りさんから「亡くなりました。」という連絡がありました。何も出来なかった(しなかった)私はその時あろうことかホッとしたのです。 ホッとしたその直後大きな衝撃を受けました。なんてことだろう、自分はいのちを守らなければいけない仕事なのに、そもそも人としてひとつのいのちの火が消えたことにホッとするなんて・・・看護職として今までその人の立場に立ってるつもりになっていた自分の中の巧妙な偽善の存在にショックでした。 あきらかに医療に繋げなければいけない人でした。出来ないという口実で、SOSをちゃんと出してきていた家族に何の支援もしようとしなかった自分、ひとつのいのちを大切に出来なかった自分・・・・・・・大きな傷はじくじくとその後私の中で化膿していきました。どうしてこうなっちゃうんだろう・・・・・・ほっとしたのはなぜ?原因のひとつは勉強不足、そして大切なことは何か?いのちを大切にすることを見失っていたことに気付くまで随分時間がかかりました。 その後様々な場所で勉強する機会を得、いろんな人達との出会い、温かく迎え入れてくださる自助グループの人達との出会い・・・勉強すればするほど私も同じじゃん、アディクションが特殊なことじゃないことに気が付き、以来どんどんはまり込んでいきました。本人に巻き込まれ、家族に巻き込まれ、そういう中で自分自身の問題に気づき、見えてきた当事者の苦しみ、家族のつらさ・・・・・・だからこれからの若い人には伝えたい、恐れず巻き込まれてみよう、そしたらきっとみえてくるものがあるから。 嗜癖問題を通して自分の問題が見えてくる・・・問題が見えてこれば解決法も見えてくる・・・っていうことはちょっと楽に生きれること。私がアディクションにはまり込んだのはこの自己研究の面白さにありました。 昨年秋に宮本ふみさんという東京都の保健師だった方の遺稿を本にまとめたものが出ました。保健師仲間から教えてもらった『無名の語り―保健師が「家族」に出会う12の物語』(医学書院)という本の最初に書かれていた物語はまだ保健師としては駆け出し時代だった宮本ふみさんが家庭訪問されたアルコール依存症を抱えた方との出会いの物語でした。この物語を読んだ時、自分の駆け出しだった時との余りの違いに落ち込みました。あの体験は今も自分の中で引き摺っていますが、宮本さんの本を読み進むうちに気がつきました。あの時の悔いを忘れないことが最初の出会った方の死を無駄にしないことだと。 ある方から最近「戦うことから降りる」ということを教えていただきました。戦うことは何とかしようと支配をすること。自分が正しい、他者が間違っているという思考は戦いを生み、結局自分が傷つくだけでした。狡猾な輩が狡賢く人を貶めながら生きるのはその輩の勝手、それを何とかしようなんていうのは薬物依存症者を何とかしようというのと同じ、結局私は『戦い』という名の正論で支配をしようとしていたのでしょう。正しいとか間違っているとか絶えず比べて点数をつけるやり方から降りよう、『戦う』という支配をやめよう。何とかしよう症候群というコントロールドラマから降りよう。自分も悔いがいっぱい、間違いだらけなのに他者に求める戦いから降りたら極楽トンボ人生の戸がちょっと開きました。

      いのちを守る、生きる力を育む過程への支援

      アルコールも薬物も慢性の自殺行為だと私は思います。イネイブリングというわれても親が子供のことを心配するのは当たり前ではないでしょうか?ほかっておけといわれて命を落としそうになった事例、底をつくまで待てと言われて待ってるうちにいのちを落としそうになった人もいる。助かる命がみすみす失われていくのを私は看過出来ないのです。見守ること、共に生きることと放りっぱなしは違うのだから。 最近私はどこか良い医療機関はないか相談を受けた時、こう伝えています。投薬を最小限にしてくれる医者の所へ行った方が良いと思うよ。その医者が良い医者かどうかなんてことはわからない、でも少なくともあなたの回復の力の邪魔はしないと思うから。医者を紹介することは気が進みませんが、私は、処方薬をまとめ飲みしていのちを落としそうになったり、亡くなったという話をもうこれ以上耳にしたくないだけです。

      貧乏を楽しむ

      アディクションをライフワークにしてから、身銭と自分の時間を使っていろんなところへ行っているとだんだん貧乏になりました。寿貧乏という言葉がありますが、じゅんじゅんの場合は学会貧乏、研修貧乏、献金貧乏etc・・・。学会、研修に使う身銭は大きい・・・何せ地元ではないから新幹線に宿泊費に参加費となるとじゅんじゅんにとっては1回でも結構大きい金額になります。あちこちから来るニューズレターには忘れかけた頃に「家賃が払えない」とか「水道代、電気代が・・・」といった記事が踊ります。ちょっと気持ちだけしかしませんが、じゅんじゅんはかくして年がら年中貧乏と相成ります。 でも、最近気が付いたのです。貧乏を楽しんでいる自分に。貧困は権力者により作られるものであり、その人の努力で乗り越えられるものではありませんからその人の尊厳を奪います。でも貧乏は自分の選択肢ですから豊かな世界が広がります・・・卑近な例を挙げれば、宝くじを買い、はらはらどきどきわくわくして12月31日を迎える。それまでの間・・・高速道路を愛車(今年4回目の車検を迎える)に愛犬のりぴーを乗せて走りながら、追い越し車線を風のように走り去って行くレクサスを見て「のりぴー、宝くじが当たったらレクサス買ってあげるからね。」と愛犬に語りかける・・・もし宝くじに当たったらあれもしたい、これもしたい、もう夢がいっぱい膨らんで夢みる妄想いっぱい状態になります。貧乏だから体験できる豊かな世界・・・いつの間にか楽しんでいる自分がいます。 年末に読んだNHK生活新書『安心して絶望できる人生』(向谷地生良・浦河べてるの家共著)、友人の年賀状に書かれてあった「新しい年がすばらしい一年でありますように」ということばに感激して、今年のじゅんじゅんの目標は『安心して出世しない、貧乏を楽しむ人生』です。(給料が貰えりゃじゅんじゅんは最高です。) すぐに舞い上がって猪突猛進になりがちなじゅんじゅんが大切にしている言葉があります。今何もしなければ20年後も何にも変わっていないけれど、今何かをはじめれば、きっと20年後には何かが変わっている。昔浦河赤十字病院の川村敏明先生から頂いたことばです。今もじゅんじゅんは穴があったら入りたいほどのことの繰り返しです。でも最近横へ成長した私に友人曰く「そんな大きな穴は掘れないわよ。」・・・そうか、入れる様な大きな穴は掘れないってことは穴に入らなくてもいいってことなんだ。そんな風に今日も妄想の世界を膨らませています。じゅんじゅんワールドにお付き合いしてくださってありがとう!!そしてこれからもよろしく!!

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