ホームレス生活脱出支援に関わって思うこと

【ホームレスは減っている?】

fp26

こんにちは。私、いわゆるホームレスといわれる人がホームレスでなくなる為のお手伝いをさせていただいているんですけど、今日はそんな日々の中、心に感じていることを少し聴いて下さいますか?

10年くらい前のことを思えば、ホームレス生活を脱するための対策はかなり増えたかなと思います。『大阪ダルク』のある大阪市を例にすると、『ホームレス自立支援法』を根拠法に『自立支援センター』ができ、働きたい気持ちがあり働ける健康状態の人が3ヶ月間(延長必要な人は6ヶ月間)食住を無料で提供されつつ求職活動や通勤ができるようになりました。また、高齢・病気・障がいなどのため治療や療養が必要な人に対する医療や福祉についても決して充分ではありませんが、じわじわ利用の幅や理解者・協力者の輪が広がりつつあると感じています。 このように、『生活保護制度』の利用方法が柔軟になりつつあることが功を奏したかのように厚生労働省がおこなうホームレスに関する実態調査では、回を重ねるごとにホームレスの数は減少していると報告されています。ただその数の中身は路上や公園などにテントや小屋を作って固定的に生活する、いわば従来型の目立つ生活スタイルの数が中心なんだろうと思うんです。この調査結果を否定する気持ちはありませんが、現場としてはホームレスの数が減ったというより、小屋やテントの物件がやや減ったというのが正直な感想です。
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    • 【では、どんなことが増えたのか】

      皆さんも報道等で少なからずご存知だと思いますが、昨年(平成20年)秋ごろから『ネットカフェ難民』や『派遣切り』といわれる現象と対象者が登場しました。私の周囲でも、 例えば去年11月以降は役所の生活保護を担当する支援係の窓口に相談に訪れる20代や30代の人の数が激増したと聴いています。 私はこれまでどちらかといえば、河川敷のテントなどに呼ばれもしないの訪ねて行き、社会資源や制度を紹介し利用を勧めては「わしゃ、いらんわ。いよいよになったらその時は頼んますわ。」 と断られるパターンが多かったので、良し悪しは別にして戸惑いを感じましたね。 このように役所の窓口に自ら相談に来る若者が増えたんです。で、そういう若者の多くは「仕事さえあれば働きたい。」と言います。もちろん「働きたい。働かなあかん。」と言う言葉に嘘は無いと思います。年齢が若く元気なら短期間衣食住を保障を受け、なんらかのお仕事をみつけることができる人は多いでしょう。ただ、続けるとなるとまた話は違ってくるようです。 仕事が続かないイコール収入がないイコール生活困窮ですから、ここは重要な問題なんです。仕事を辞めた理由をたずねると、人間関係をあげる人が少なくありません。ただし、その背景に発達障害の疑いや10代前半のシンナー使用による後遺症状、アルコールに関連する離脱症状などにより、イライラが抑えられなかったり無断欠勤や遅刻をして、職場の人間関係が悪くなってしまったというようなことが考えられる場合があります。本来は精神科できちんと診断や治療を受けることが先決と思われることもあります。また、これまでの生き方や考え方、モデルとなった大人の影響で社会生活がうまくいかず悪循環を繰り返す人もたくさんいて、悪くすると2次障がい的にうつ病などの病気になったり、罪を犯して刑務所に入ることになる人もいます。

      【そして、気付いたこと】

      少し話が変わりますが、『マズロー』というアメリカの心理学者の『欲求段階説』をご存知ですか?私は学生の時に必修だった『心理学』の授業で習いました。余談ですが、元々 勉強が嫌いなうえに暗記は大の苦手だった(今もですけど)私は当時、『心理学』の授業が嫌いで学者の名前や学説を暗記しなければならない試験は憂鬱でした。 しかし、ふと、これまで老若男女たくさんのホームレスの人からお話を聴かせていただくなかで『マズロー』 さんが『 りくろーおじさん』のように私の頭の中に満面の笑顔で蘇ってきたんです。 『 マズローの欲求段階説』について、ほんまにざっくりですが紹介しますね。 マズローさんがいうには、人間の欲求は5段階のピラミッドのようになっていて、底辺から始まって、1段階目の欲求が満たされると、その1段階上の欲求を志すのだそうです。 5段の跳び箱のようなピラミッド型を想像してみてください。下から、1段目は『生理的欲求』といって、いわば食べられて寝られて・・・ということです。2段目は『安全の欲求』で、安心して食べられ、眠れること。3段目は『親和の欲求』は他人と関わりたいという欲求です。ある集団の中の一員でいたいというようなことでもあるようです。で、4段目は『自我の欲求』。これは、自分が所属している集団などで必要とされたり、認められたいと思うことです。そして5段目は『 自己実現の欲求』でさらに自分の能力や可能性を発揮したい。成長したい。新しいことをしたい。と考え行動する欲求だそうです。 ホームレスの人の生活状況や気持ちを聴くうち、今、行政などが最も力を入れている就労支援は、ともすれば4段の跳び箱を練習無しでいきなり跳べといっているようなものではないでしょうか?かとおもうと、箱の順番を逆にしたり、抜かしたりしてグラグラしているのではないでしょうか?そのせいかどうか定かではありませんが、本人さんの希望に従い、『 自立支援センター』 を利用したのちに、事情は様々ながら再度ホームレス生活に戻ってしまう人は少なくありません。ホームレスの人自身も支援者も行政も、この辺りを見過ごしたまま、制度や社会資源を利用してしまっているのではないかと感じるんです。

      【最後にもう少し】

      ホームレスに関わる問題は決して無視されているわけではありません。法律もあり、お金も使われ、相談したり泊まったりできる建物もそれを運営する人もいます。しかし、ある意味どれだけ手厚い支援やサービスを利用できたとしても、その人の抱える問題に蓋をするだけではその人自身の人生は改善されないんじゃないでしょうか? 私は、老若男女を問わず、ホームレスという生活をしている人の中に、その人が家庭や学校、地域の一員として生活している頃から、ホームレス状態と同程度の貧困や劣等感や孤独を感じるような環境にあったのではないかと感じることがあります。そう考えると、その人の心の野宿期間はもっともっと長いということになり、その分、身体がホームレス状態でなくなった後でもこれまでの孤独感あるいは劣等感はなかなか解消しがたいのではないでしょうか?心から本当にホームレスを脱するにはまず時間が必要でしょうし、先ほど話をさせていただいたピラミッドの2・3段目を積み上げる作業が必要です。現実的には、そういう支援を受け生活保護制度を利用しながら、自分の居場所や役割をみつけている人はいますが、まだまだ少ないと思います。それはたぶん形だけではなく一方通行でもない、人と人の育ちあいが叶った結果なのではないかと感じます。ただ、こんな話は制度の枠組みなどに明文化されるのはかなり難しいと思うのですが、若いホームレスが増えつつある昨今、私自身が今後の関わりについて特に感じ考えさせられていることなので、今日は聴いていただきました。 お互いへこたれず、明日もいい日になりますように。

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